ブルージーな朝
超いまさらな話なんですが、ブルージーな朝って超名曲。
- アーティスト: B’z,KOSHI INABA
- 出版社/メーカー: ルームスレコーズ
- 発売日: 2003/09/17
- メディア: CD
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まずはざっくりと状況を整理しましょう。
来るはずの無い電話を待ち テレビも消さず眠ってた
歌詞の一人称は「私」なので、歌詞としては珍しく限りなく女性*1、電話を待まちくたびれてそのまま寝てしまったというけだるい印象を受けます。勝手な印象だけれど、この人たぶん化粧も落として無さそう。そのまま彼女*2はシャワーを浴びて出かけるわけですが、シャワーを浴びようが街に繰り出そうが特に心は晴れない=ブルージーな朝。
彼女はこのブルージーな朝に「いつまで続くのだろう」という嫌気のさしたウンザリした気持ちを抱えております。でも、それを積極的に変えて行こうという気は別にない。自分自身は変わりたいとも思わず、そのままの自分を「誰か受け止めてよ」と思ってる。そして踏みこんで言えば受け止めてくれる人が居ないことも承知してる。だからバスの景色も「見飽きてる景色」。この彼女に最もそぐわない音楽というのはアレです。お馴染みのアレ。「オノレの限界に気づいたつもりかい?」とかいう曲や「繰り返しなんてぜんぜんない暮らしをしてるはずだぜハニー」ってやつ。そりゃね分かってるけどね・・・はぁ(溜息)みたいな。
2番に入るともっと状況がクリアになってきます。
フライデーを買ってだらだらめくる お茶の味がなんか渋く感じる
なんとなく探すのは人の常 不幸な話題
このフライデーという固有名詞でふたつ意味を汲み取ることが出来ました。まずはこれが金曜日ということ、そしてちょっと強引に持ってくると「フライデーが人の不幸が載ってる雑誌」だということ*3wそしてサビが「受け止めて」から「さらっていって」になりました。もう逃避願望です、この次がこの曲の大きなポイントになります。
雨が降り出した 傘も持ってきてない
突然の雨だったのでしょうか?それとも前々から予報されていた雨だったのでしょうか?それはこの文脈からは分かりませんが、重要なのは雨が降っているにも関わらず「傘も持ってきていない」という一点です。不注意だったのか不運だったのかわかりませんが「傘は持ってきていない」ではなく「傘も持ってきていない」。そして続きが・・・
ああ ブルージーな朝 びしょ濡れが気持ちいいい
ドMですね。っていうのは嘘でwスーパー自己憐憫。簡単に言えば悲劇のヒロインに浸っているっていうんですかね。「どうせ・・・私なんて…傘ももってきてないし・・・誰が迎えに来てくれるわけでもないし・・・」みたいな。こう、女の人って別に答えを求めてるわけでもない相談という名の愚痴に付き会ったことってあると思うんですけど、個人的にはこの歌詞からそういう印象を受けてみたり「あーやんなっちゃう」みたいな。不幸にどっぷり浸りたい経験ありますでしょうか?このちょっと自虐的な感じが「弱ってる女性」を主役にした歌詞として妙にリアリティがあるように感じられます。女心と簡単に言い切るにはまた少し抵抗があるのですが、稲葉さんの歌詞に出てくる女性って昔は願望*4めいたものが多かったように思うのですが、この歌詞の女性はとても等身大で人間味がある。
ここでちょこっと風向きが変わります。
こんな私は どこから来たんだろう
こんな私を あの人はどう思う
ここでようやくほんの少しの客観性が出てまいりました。こんな私=どんな私かと問われれば、かなり自己憐憫に浸ってて、でも自分は変わるつもりはなくて、雑誌で他人の不幸探ししてるっている。というあんまり魅力的ではない姿が浮かびます。どこから来たんだろう?という疑問に「自分のせいだと思えばいい そして自分を変えればいい」という正論だけれど、正しくない答えはこの場合不要です。
そして、ようやく「あの人」という具体的な方が浮かんできました。なんだ「誰か」じゃないじゃんと思うと間もなく最後に伏線の回収です。
ラスト。
電話が鳴りだした 神様に祈る
そう、電話で終わる。
この構成、美しい小説を切り取ったよう。たった3分ちょいの短編小説。これ、いつものように主人公が僕だったら電話は鳴らないまま終わると思うんですよね。でも、ブルージーな朝の電話は鳴る。もちろん、ただの勧誘電話かもしれないし、間違い電話かもしれない・・・でも「あの人」からの電話かもしれない。そんなちょっとした希望を残した終わりにストーリーテラー稲葉浩志の優しさを感じてみたりするのです。
B'zの曲や歌詞は自分を叱咤激励してくれるものや、ギリギリのところで踏み留めてくれるようなものが多いものですが、この曲に関してはクリス・フレイジャーの繊細なドラムや松本さんのオサレなギター、そして稲葉さんのやたらリアリティある女の醜さと可愛さがあいまったアンニュイな歌詞によって、淡い水色のような涼しげな色彩のイメージいわゆるB'zというバンドがもっているパブリックイメージとはちょこっと外れた、とても素敵な曲になっております。
大好きな曲なので、そろそろライブでやって欲しい←結局そこ。