稲葉浩志の嘘

わかんないことだらけ、みんな嘘つくから。でもその気持ちもわかる、かくゆう僕もかなりのイカサマ野郎なんです。

っていう出だしは、皆さんご存じのパーフェクトライフの「敵は作りたくはないからね、誰か責めても 結局最後には自分自身貶めてお茶濁す」をまさに地で行ってる感じではありますが、稲葉さんって他人の嘘にはわりと寛大で、自分が自分自身に対して付く嘘を嫌悪しているきらいがある。もちろん、今回のDon’t Wanna Lieなんかも。

いけね、また自分に嘘ついた

それは出来るかぎり「正直」でありたいという稲葉さんなりの哲学なのかなとも思うのです。意図的な言葉の「嘘」ではなく、なんとなく自分を曝け出せない、演じている自分を憂うというある種のパターン「自分晒して相手に嫌われるのが恐かった」なんて歌詞の通り、言ってしまいたい気持ちと言いだせない気持ち。結構大きなテーマなんじゃないのかな。

でも おまえの想像もつかないような僕がいる
あぁ、おまえが 知ったら気絶する間違いない

特にそれを再確認したのは「あなたならかまわない」のこの一節。要は「あなたならかまわない」と言われたいという願望を歌ったこの曲。それまでの歌詞が「どんな酷い女でもあなたなら構わないよ」という男性→女性に対する割と一般的なラブソングだったのが、最後の最後でどんでん返しが起き、受動と能動が瞬時に入れ替わる歌詞のマジックは本当お見事としか言いようがない。でもイナバの歌詞はこうでなくっちゃとも思ったりもする。

そういう僕も 思い通りの人じゃないよ 想像以上にいかれてる
それでもいいと言ってくれ あなたならかまわないと

これってB'zの存在自体にも結構感じていて、
彼ら自身は自分のことを多くは語らないけど、とりあえずデビューから23年と言う長い月日がたっていて、ファンをやっているとなんでも知っているんじゃないかと錯覚してしまうときがある。そして本当にある範囲内の事は本人よりも詳しかったりするけれど(たぶん2人ともシングルの発売年とかアルバム収録曲を覚えてないと思う、なんたって赤い河を忘れる人よ?)でもその一方で本当は何も知らないような気にもなる。(だからこそ、「あなたは私のほんのイチブしか知らない」という歌詞は本当は自分自身に向けられているんじゃないかと思ってドキリとしたり。)2度目の結婚からプライベートは一切喋らなくなったり、歌手の生命線ともいえる喉の手術を5年もたってから公表したりするし(笑)

「互いのことを わかりあうのは不可能」を前提に聞く「人はまだまだ謎だらけ」というフレーズはすごくポジティブで、小説のキャッチコピーじゃないけど、世界は喜びと驚きに満ちているような気持ちになる。分かりあえないことは哀しいだけじゃない、角度によってはそれ自体が魅力でそこに価値が生まれたりもする。そういう距離感は嫌いじゃないし、だからこそ、これからも彼の嘘につきあって行きたいと思うのです。