人質の朗読会

自分の中にしまわれている過去、未来がどうあろうと決して損なわれない過去だ。

人質の朗読会

人質の朗読会

ネタバレを恐れずに言うのであれば、始まって3ページ目には登場人物の大多数が死んでしまうというかなり奇特な作品。しかしながら、悲壮感や未練に溢れた話ではなく、慎ましくそれでいて温かな話ばかりでした。登場するのは普通の人の日常の延長線上にあるちょっと不思議な出来事。

別に特段珍しい話や受け継がれるような大層な話ではなく、かといってありふれた話でもなく、その人にとってだけは忘れられない、そんな個人的な出来事。それが「人」との出会いだからか、どこか魅惑的でいて普遍的な印象を抱かせる。ふらりと登場する独創的な人々に対して、語り手はとても凡庸。そのコントラストがなにげないストーリーに陰影をつける。
平平凡凡の日々を送る私にはどうしても語り手の方に共感してしまって、ひとりの物語が終わるたびに「あぁ、この人はこんな仕事に就いて、そしてもう死んだ人なんだ」と初めから分かっているのに切なさが募る。別に殺さなくても良かったんじゃないのか…という気持ちが最後まで拭えないまま読み終わって、ふと、小川洋子アンネの日記を愛していることに思い当たり、ある種の納得をする。希望は捨ててない、でも最期かもしれない。そういう話を書きたかったのかもしれない。自分が伝えなければ、消えてしまう。儚くとも切実な話を。
1日につき1章、つまりひとりずつ。8日間に渡って楽しみを与えてくれた読書を経て、やはり慎ましさは美徳だと知る。