凍りのくじら

「来月の新刊が楽しみだから、そんな簡単な原動力が子どもや僕らを生かす。」

凍りのくじら (講談社文庫)

凍りのくじら (講談社文庫)

凄く良かった。

ミステリーではなくSF、少し不思議なお話。ドラえもんを愛する少し・不在な女子高生とその周辺。

もともとドラヲタでとりわけ大長編を偏愛している私*1にとってなんともツボを刺激してくるお話でした。なんでもっと早く出会わなかったかなぁ〜。でもこれは同じ年代だったらちょっと色々な意味でキツイかもしれない、ってことはやっぱりこのタイミングで読むのが良かったのかもしれないな。なんて。

もてあまし気味の自意識を抱えて、不安定な思春期をサバイブしていく。なんて言ったらちょっと格好が良すぎるか?久々に感情が揺さぶられる読書でした。後半急ぎ足になってしまいもったいなかったけれど、*2最後のあのオチが眩しすぎる。シックスセンスのような「あぁ・・・」という叙述トリックの方じゃなくてあの道具と添えられた言葉が。やはり、随所に溢れる藤子・F・不二雄への敬愛が素敵だなぁ「ドラえもんの中で描かれている教訓はのび太くんを信じた上で成り立っているよね」なんてなかなか出てこない言葉。

できればムカつかずに生きたい (新潮文庫)

できればムカつかずに生きたい (新潮文庫)

そういえば、この本でドラえもんの母性に対しての記述があった。(この本も持て余している自意識関連)

この「ドラえもん」を子供と観ていてびっくりしたのは、ドラえもんの並外れた母性である。やっているのは母親の代理。それも超甘やかし、過保護の乳母だ

と、田口ランディドラえもん否定派。でもね、勉強も出来なくてスポーツもダメで喧嘩も弱いただ素直が取り柄なだけの少年をひたすら「温かい目のつもり」と言いつつも見守り続けてくれるドラえもんの優しさ(時折ぶっ殺すとか言いだすw)に私はある種の安心感を持つのです。

理帆子の母親は母性より父性に近いから、理帆子は足りないものをドラえもんに求めたのかもしれない。そして若尾にはどんな状態になっても受け入れてくれるドラえもんがいなかっただけで、傲慢さとそこに宿る哀しさは紙一重なのかもしれない。そんなことをぼんやり考えていたら、両親のメッセージに不意打ちを食らっちまったゼ。

後は多恵さんにもらった巾着袋を無くしてしまった時の「どうしよう、どうしよう」という不吉な予感めいた不安とぐちゃぐちゃとした感情にいっぱいいっぱいになってしまう気持ちの揺れが特に秀逸でした。本当一緒になっておろおろしちゃった。

ドラえもん (20) (てんとう虫コミックス)

ドラえもん (20) (てんとう虫コミックス)

作中に出てきた「天の川鉄道の夜」が収録されてるのはコチラ。

思えば、私は放課後は駅前のマックでほぼ毎日どうでもいいようなヒトの恋話に適当に相槌を打ち、帰りの電車ではMDでB'zを聴きながら小林秀雄を読んでいるようなイヤーな女子高生だったなぁwそして残念な事にその頃の私は今も、確かにいる。うっかり見つからないように上手に隠れつつ付き合っているけれど。

そして、思い入れの為か無駄に長くなってしまったこの文。最後に大人になるほど沁みるのび太の名言を置いておきます「みんなでくらげごっこしない?」

*1:少し・不真面目

*2:若尾はどうなったんじゃー