動物病院24時

僕たちは悩み、悔み、まちがう。

動物病院24時―獣医師ニックの長い長い一日

動物病院24時―獣医師ニックの長い長い一日

アメリカ最大級の動物病院で活躍する獣医師の書いたノンフィクション。
胃捻転で夜間に緊急手術を受けるジャーマンシェパード、7階から飛び降りた猫、骨肉腫のバーニーズマウンテンドッグ、手術前に逃げ出したグレイハウンド・・・獣医といってもほとんどが犬の話で犬派の私には嬉しい限りでした。

患者の状態をこうやって羅列していくとさも難しいノンフィクションのようですが、内容はユーモアに富み(というか富みすぎ)軽い口調で書かれています。現役の獣医師なだけあって様々な症状や症例が矢継ぎ早に出てきますがどれも数字で裏付けられていて彼がただの適当でひょうきん者な獣医なだけではないことが分かります。

言葉を話せない動物の場合、その治療の意志は人間に左右されるのですがそれが本当に難しい。

  • ペットの治療にどれぐらいのお金をかけるのか?
  • 治る見込みのない延命治療は必要なのか?
  • インターネットが獣医に与える影響は?
  • 獣医師から見たペット保険とは?
  • 動物の肥満の問題点とは?
  • 安楽死の是非は?
  • 犬の美容整形は許されるのか?

題名の通り1日の出来事として次から次へと患者がやってきて(しかもその間に回想シーンが入る)凄いスピードで進んでいってせわしない。次々と出るアメリカンジョークも訳のせいか頻度のせいか煩わしくなってくるのでコラムのように飽きない程度にちょいちょい読むのが向いていると思います。

個人的には序盤に胃捻転で運ばれてきたジャーマンシェパードのセイジの話がとても印象に残っていて、妻亡きあと唯一残された愛犬をよりどころとする老人、しかし老人の娘は犬の寿命を考えて11歳の老犬に手術をうけさせるなんて!(年金と社会保障に頼っている老人にいくらかけさせるつもり?)あんな哀れな状態から解放してあげればよかったのに!と憤る。どちらの意見も筋が通っているだけに難しい。白黒つけることのできない境界線。

多くの個性的な患者(とその親)も面白い。同じお墓に入るために自分の名前を改名する人や犬アレルギーなのに週2回注射を受けて犬を手放さない人、ただのクレーマー、愛犬が天国についてこれるよう健康な犬の安楽死を遺言状に書く飼い主まで実に様々。この獣医師ニックさん。何よりはっきりと自分の意見を持っていることが安心できる。犬は1本足を失っても悔んだりしない事や獣医師の自殺率からみたこの仕事の未来。全てに同意できるわけではないけれど、微妙な言葉でお茶を濁されるよりずっといい。

よくよく考えたら自分の犬の行っている獣医さんが断尾や断耳、声帯除去にどんな意見を持っているか詳しく聞いたことはなかった。今、かかりつけ医は2か所だけど(休診日があるから)念のためもう1か所ぐらい開拓しておきたいと思います。方針が全然違うから人間の医者よりも難しいんだコレが。

シリアスになりすぎないアメリカのペット事情。でも、獣医さんも大変そうだなぁ。