ロミオと呼ばれたオオカミ

ロミオ、あなたはどうしてロミオなの?

ロミオと呼ばれたオオカミ

ロミオと呼ばれたオオカミ

向かって右側が盲導犬としても有名なラブラドール・レトリーバー、左側の黒いのが野生のオオカミ。こんな大きな、こんな美しい、動物が誰の手も借りず自分だけの力で生きてる。自然というのは凄いもんだと思う。

アラスカの田舎町ジュノーの街外れに現れた1頭の野生のオオカミの記録。
ざっくりと分けると中身は2つ。ひとつは、言葉を持たない動物と人間のひっそりとした心温まる神秘的な交流。アラスカと聞くとオオカミのメッカのようにイメージしてしまうけれど、野生の狼は地元の人でもなかなかその姿を見ることはできない。数だって少ないし、なにより彼らは警戒心が強い。そんなオオカミが家のすぐ近くに現れ、しかも犬と遊ぶ。目的は食べ物ではなくただ社会的なつながりを持ちたいだけのように見える不思議な時間。著者はまさにジュリエットの如く興奮し、恋い焦がれ、慈しむ・・・僅かな人々が大事にひっそり守っていた秘密。だけど、秘密というのは必ずどこかで漏れ出してしまう。しかも、ロミオは誰のものでもない野生の狼で、それはメリットであると同時にそのままデメリットとなる。ロミオを守るためにある人はあえて何もせず、ある人は付き合い方を模索する。野生動物との距離は難しいけれど、日々の描写は繊細で美しい。

もうひとつは、ロミオが密猟者に殺されてから。前半は割と客観的な文章に対し後半は激しめ。激しいというか感情が強い、悲しい。なんというか…絶対的な悪意の前に人間は無力で、別の動物とこんなにも心を通わすことが出来るのに、なぜ人間同士はこんなに分かりあえないんだろうと絶望的な気持ちになる。あんなにジェントルなロミオも法律の前ではオオカミ1に過ぎない。でも、同時にいつかこうなってしまうことをどこかで気付いていてだからこそ恐れていたような気もする。動物と人間の関係について考えさせられる本。

Romeo: The Story of an Alaskan Wolf

Romeo: The Story of an Alaskan Wolf

嬉しかったのはジョン・ハイドやリン・スクーラーの名前と本書で再会できたこと。懐かしい友人と再会したような気分。
あの人たちがまだアラスカの地に留まり続けていることを知って、なんだかたまらなく嬉しかった。星野道夫だったらロミオのことをどんな風に表現しただろう?