戦禍のアフガニスタンを犬と歩く
2012年、1冊目の打ちのめされるような凄い本。
- 作者: ローリースチュワート,Rory Stewart,高月園子
- 出版社/メーカー: 白水社
- 発売日: 2010/04/01
- メディア: 単行本
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以下本の内容及びラストに触れてます。未読の方はご注意を。
アフガニスタンを徒歩旅行で歩ききった一人のイギリス人の記録。とても面白く、興味深く、それでいて教養と示唆に溢れる旅。旅行記好き犬好きの私にドンピシャ。ドンピシャすぎてしばらく気持ちがアフガニスタンから帰ってこれなくなった。
なんたって出だしが良い「ある日の午後スコットランドを歩いていて「このまま歩き続けてはどうか?」と思ったのが今回の徒歩旅行の始まりだった」だなんて深夜特急の「デリーからロンドンまでバスで行くことができるか」みたいじゃないか。なんというか、似たものを感じたわけです。まぁ沢木氏ほどなんでもみてやろう!っていう熱いパッションではなくて、もっと知的で修行僧みたいな旅なんだども。
ちなみにオフィシャル的にはこんな感じの紹介文。
本書は、タリバン政権崩壊直後の冬、英国の元外交官が、アフガン西部の都市ヘラートから首都カブールまでを歩いた36日間の旅の記録である。
この文章だと真面目なルポタージュみたいなんだけど、これがめっぽう面白い!
このローリーさん以前からとにかく徒歩で歩きまわるのが好き、今回は前行った旅の空白地帯を埋めるためにこの無謀な旅に出ます、一応名目は15世紀の皇帝バーブルの足跡をたどる旅。もちろん治安も政治も安定していないアフガニスタン・・・初めからうまくいくわけもなく、序盤は不本意ながら護衛のお伴をつけての旅立ち。(このお供との旅もなかなか波乱万丈なんだけど)
その後、念願かなって一人旅となり、途中で一匹の大型犬が成り行きで一緒に行くことになる。しかしここはイスラム圏。
(犬は)不浄の動物だもの。ぼくたちの預言者が犬に触らないように言っている。特に祈るときには。もし犬に触れたら特別な清めをしなくちゃならないんだ。(村の少年)
という文化。
著者はこの犬にバーブルと名前をつける。バーブルと共に徒歩で旅をする。
車じゃない、馬でもない2人は必然的に地図にも載らないような小さな村を頼って進むことになる。雪に閉ざされた村では失われつつある風習や文化が残っていて、なんといってもこの来客に対するもてなしの文化に驚いた。
地域のコミュニティ、権力と人種の抗争、村同士の対立やタリバンとの関わり、戦争の傷跡、自分の家系図を何代も憶えている青年、隣村に行ったことがないこの村で生まれ死んでゆく(であろう)女性、爆破されたバーミヤンの石像と対になる様にひっそりと消えてゆくターコイズの遺跡・・・今、行かなければ取り返しがつかない。今、見なければなくなってしまう!そんな焦燥感を感じる。
もちろんタリバン崩壊直後の混乱した時期、しかも冬。現地の人には理解不能な異国の異教徒(しかもデカイ犬付き)その旅には多くの困難が待ち構える、道は雪で埋もれているし、後ろから発砲されそうになるし、地雷が埋まってるし、村のヤンキーに絡まれるし(その切り抜け方はお見事!)穴に落っこちるし、下痢で死にそうになるし、死にそうなのに村人から薬をねだられるし、・・・雪の中でこのまま目を閉じたら幸せだわ〜みたいなことにもなり(この生還部分はかなり感動的)決して楽しいことばかりではない、危険と隣り合わせというか旅自体が危険。
著者が見て聞いたものはアフガニスタンの本当の姿なんて大層なものじゃなくて、一歩づつ足で稼いだ多くの小さな証言。とにかくこのヒトが魅力的で博識で教養溢れ控えめに文化や歴史を教えてくれるもんだから最後まで興味の尽きない本でした。*1ユーモアも忘れないしね。せっかくだから旅の下敷きとなったバーブル皇帝の本も読もうと思ったんだけど・・・
- 作者: 間野英二
- 出版社/メーカー: 松香堂
- 発売日: 1995/02
- メディア: 単行本
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それにしても世界というのは本当に広い。
私が中東の文化に疎いというのもあるんだけど、自分が暮らしている21世紀とは全く違う世界、もう違う星のようにすら思えるその体験。異国じゃなくて異星。想像を越えたってこういうことなのかなー?ナイスな邦題付けて頂いて感謝、原題のままだったらこんな面白い本を知らずに過ごすところだった。
あなたにはあなたの、わたしにはわたしの信仰がある。
バーブルは飛行機に乗る前日に事故で死んでしまう。彼は最後までアフガニスタン犬だった。きっとバーブル皇帝の使いで、その地の灰になるべくしてなったのだと、そんな風に思う。・・・・というか思わずにはいられない。*2