雪の練習生

ひんやりとした澄んだ美しさのある物語。

雪の練習生

雪の練習生

動物なのかヒトなのか、フィクションなのかノンフィクションなのか、読んでいるうちに様々な境界線が曖昧になっていって、でもそれがどこか心地よくすら感じる小説でした。

  1. 亡命し自伝を書き始めたシロクマの「わたし」
  2. 女性調教師ウルズラとコンビを組みサーカスで活躍した「トスカ」
  3. トスカに育児放棄されたため、人間に育てられ動物園で暮らす「クヌート」

シロクマの三代記。それぞれのクマ達の語る世界観はシニカルでユーモラスなんだけど、どこか憂いを帯びていて哀しい。クマらしい(?)ユニークな視点のすぐ脇で人生哲学や宇宙の不思議が語られたりする。「トスカ」の章は最後まで読んで「あぁ」と納得できる仕掛けになってて、なんというかこういう動物的な感覚の視点から改めて意識してみるととても不思議な気持ちになる。王子様「クヌート」の章は少し切ない。

クヌートって名前しか知らなかったんだけど、彼がどんな人生だったのかもっと知りたくなった。

みんなの希望の象徴となる義務を背負って生まれてきたんだ。

飼育員さんが急逝したこととか、ウルズラが実在したこととか、「死の接吻」はホントにサーカスであった演目だったこととか、リアルなんだけどどこか寓話的で読み終わった後も興味のつきない本でした。動物園でシロクマを見たら彼は「何を考えているんだろう?」と思いを馳せてしまう様な・・・

惜しむらくはクヌートがもういないことか。
 
ウルズラとシロクマの「死の接吻」↓

人称代名詞の使い分けが斬新すぎて、どうしたらこんな設定を思いつくのか不思議でしょうがない。