空へ

ライミングは素晴らしい行為だと、わたしは堅く信じているが、
それは、危険を内包するにもかかわらずではなく、まさしくそれゆえに、なのだ。

空へ―「悪夢のエヴェレスト」1996年5月10日 (ヤマケイ文庫)

空へ―「悪夢のエヴェレスト」1996年5月10日 (ヤマケイ文庫)

TUTAYAでDVDを借りる時に数合わせとして選んだINTO THE WILD*1。久しぶりに見てやっぱり良いなーと原作*2も再読して、そのままの勢いでジョン・クラカワーのもうひとつの代表作に(ようやく)着手。

評判はずいぶんと前から聞いていたのですが、なかなか重い腰を上げることが出来なかったのは既に紹介文からして不穏な感じが立ち込めていたから。→「1996年5月、日本人の難波康子さんをふくむ12人の死者を出す遭難事故がエヴェレストで発生した。」山岳小説ってのは、そのへんのフィクション小説よりも面白くて(と言ってしまっていいのかわからない)アタリが多い気がするのだけれど*3こういう遭難系はなかなかヘヴィなので読むタイミングを見誤ると結構後に尾をひきなねない。

いざ読んでみた感想は…いやー、さすがジョン・クラカワー!
期待以上の内容、想像以上の過酷さ。500ページ程度でそんなに厚みがあるわけでもないのに、読むのに手間取り、実際の3倍ぐらいの長さにに感じました。何度も戻って事実確認と名前確認を繰り返して、まるで1歩1歩登るように読む。でも、それだけ苦労して読む価値がある打ちのめされるようなすごい本。
お金さえ払えば技術がなくてもエヴェレストの頂点に立てる…観光ビジネスとして肥大化する登山。シェルパがロープを張って、荷物を持って、酸素ボンベの空気でお気軽にできる登山。頂上ではまさかの渋滞が発生。そんな状況を取材する為に自らも6万5千ドルの大金を払い*4ツアーに参加した著者。しかし、結果としては複数の隊から12人の人間が…それも顧客だけではなくガイドやベテランのライバル関係にある2人の隊長までもが亡くなるという大量遭難につながる。

壮絶な状況で生き残った登山家としてのノンフィクションでありエヴェレストが抱える問題のルポタージュ。色々な角度から見た1996年5月10日の考察は、奇しくも本人が当事者となってしまったが故に、クリス・マッカンドレスに対してのような客観性やすっきりとした道筋も明確な答えは出てこない。前半の人物紹介や動機の説明がとても詳細なので、山に登った事の無い私でもすんなりと状況が読みこめるのが凄い、そこから後半の追い込みは寝食を忘れるほど。興奮、困惑、怒り、友情、恐怖、欲、後悔、懺悔、そして世界の頂点を制覇した先に待っていたもの・・・感情も描写も出来る限り正確に描写したのは伝わってくる。富士山にだって登ったことのない私がエヴェレストに行く可能性は100パーセント無いけれど、その山の一番上に立つ気持ちを少しだけ想像してみる。

もしは意味がないけれど、もし、天候が荒れなかったら。もし、あの時引きかえしていたら。ほんの少しの判断が生死を分ける、そしてそれは酸素が薄いぼんやりとした頭でジャッジされる。自然に挑むというのは、こういうことなんだなーという骨太な本。ベック・ウェザーズが生きててくれて良かったよー!

誰にでも勧められる本ではないけれど、荒野へが好きな人ならきっと気に入ると思います。
イモトはとんでもないことに挑戦してたのね。

*1:

イントゥ・ザ・ワイルド [DVD]

イントゥ・ザ・ワイルド [DVD]

もう何回も借りてるのでそろそろ買った方が良い気がする…思った以上に原作に忠実だった

*2:

荒野へ (集英社文庫)

荒野へ (集英社文庫)

サム山への登山が印象的

*3:著者ジョン・クラカワー含め理論的で聡明な方が多い印象

*4:正確には会社が負担して