スロウハイツの神様

なぜに人は誰も ただ生きるだけで 傷つく 傷つける?

スロウハイツの神様(上) (講談社文庫)

スロウハイツの神様(上) (講談社文庫)

スロウハイツの神様(下) (講談社文庫)

スロウハイツの神様(下) (講談社文庫)

本当にこのヒトは些細な関係性を書くのが上手い。

これからどんどん注目作家になってゆくんだろうなぁっていうのが容易に想像できる(といっても私が存じ上げてないだけで既に注目株なのかもしれない)まだ2作しか読んでないけれど、確信を持って言える。それぐらい筆力がある。たまたま似たような題材だったとして早急に判断してしまうのもアレですが。自分を支えてきたテレビ・雑誌・漫画・アニメへの感謝が行間から溢れてて、エンターテイメントで何が悪いぐらいの意気込みがあって、でもベタなところも外さない。落とすところは落とす。ダークというかほろ苦い。

正直なところ上巻の途中までは登場人物の名前が覚えられなくて内輪受け的なノリ*1にあんまり乗り切れず、途中で一回挫折しちゃったんだけど、狩野のキャスティングが勝手に濱田岳で脳内変換されたり、ハチクロのような繊細な人間関係が見えてきたら俄然面白くなって一気読み。読みたい本があるということは、贅沢だ!

クリエイターたちがひとつ屋根の下で暮らす。
作った作品が評価されない先の見えない不安、評価されない作品しか作れない自分に対する苛立ち、身を滅ぼすダメな恋愛。やっぱり感情を揺さぶるような7割*2あたりのスピード感がとりわけ心臓がぎゅーっとした。くじらの時もそうだったけど身内系はダメ、ばぁちゃんものにはどうしても弱い。最後に伏線が全部綺麗にまとまってゆくところなんてほんわか暖かい気持ちになれました。(お久しぶりですにはやられたー!)

環を魅力的に書こうとしてるんだろうな〜というのは序盤から感じてたのに、うまく術中にハマってしまった。強くて意地っ張りで不器用で脆いとても魅力的なキャラクターでした。
欲を言えば上下巻じゃなくてグラスハーツみたいに長く連載して欲しかったなぁ。ずっと読んでいたかった。

ちょっと気になるところもありましたが*3おおむね満足な読書でした。

口に出せないぐらい好き、とか簡単に名前が出せないぐらい大事、とか。そういったことが人間にはある。

私の場合それは音楽だった。

*1:主にチヨダ・コーキ神聖化

*2:下巻P216あたり

*3:作品名を出してるのと×××って名前伏せてるのの差はなんでだろう?あと、文脈的にこれは無いんじゃない?ってのが何か所かあったのだけがちょっと残念。